プロジェクトストーリーロアアームブッシュ

ロアアームブッシュ

チームで掴み取った
モルテンでしかつくれない
耐久性と性能を併せ持った製品

音・振動・流れの制御を軸に、ゴム・樹脂を主材料とし、自動車を動かす基本性能に欠かせない製品を供給している、自動車部品事業。その中でも、自動車の足回り機構を構成し、操縦性、防振性を向上させるために、お客様とともにつくった部品、ロアアームブッシュがあります。この開発責任者に、受注までの秘話、開発への熱い思いを語ってもらいました。

ロアアームブッシュ
ロアアームブッシュ
ロアアームブッシュ

車の操縦安定性に大きく影響すると共に、ドライバーが求める車との一体感をつかさどる重要な部品、ロアアームブッシュ。フロントストラット式サスペンションのロアアームに付くわずか数センチの部品です。自動車の足回り(サスペンション)部分に取り付き、振動を吸収し構造体の動きをスムースにさせる役割を担います。

プロジェクトストーリーチームで掴み取った「モルテンだからつくれる」自動車部品

泰 日出人HATA HIDETO

自動車部品事業 技術開発統括部 統括部長

1996年
モルテンに入社後、自動車部品の設計・開発に携わり、
自動車の操安性にかかわる、数々の防振部品の開発を担当。
~現在
自動車部品の技術開発統括部の責任者を務める。

ストーリーのアウトライン

モルテンの大きな柱である「自動車部品事業」。モルテンがメーカーとして信頼していただける背景には、1959年から自動車部品製造を続けているからにほかなりません。モルテンが特に強みとしているのは、「音(Sound)」「振動(Vibration)」「流れ(Flow)」を制御する技術。車の機能性と楽しさに影響する重要な要素と位置づけ、開発を進めています。その中でもお客様とつくり上げたロアアームブッシュには、劇的なストーリーがあります。

エピソード 01

「やるしかない」リミットは2週間

まさに大逆転。モルテンの自動車部品事業の歴史の中で、ロアアームブッシュほど劇的な受注は初めてではないでしょうか。一旦は他社への発注が決まったものを、お客様のキーパーソンであるA氏の「モルテンの部品でないと狙った性能が出せない。何とかやってくれ」という情熱あふれる言葉がきっかけで一転し、モルテンが受注しました。
それもA氏は海外出張を急遽切り上げて帰国され、その足で高陽工場に寄って下さった。その思いに応えない訳にはいかない。やるしかない。でも残された時間はわずか2週間。自分たちにできるのか、間に合うのか。今だから言いますが、不安だらけ。自信はあまりなかったですね。

盲点だった、車の動きに必要な部品の重要性

お客様の次世代の車の開発に向け、共同開発契約を締結し、いくつかのサスペンション関連の足回り部品の開発を進めていました。その開発過程で、ロアアームブッシュが、我々の想定以上に、車の走る・曲がる・止まるに大きく影響する重要な部品であることがわかりました。我々は性能や仕様を部品単体で考えがちで、それは必ずしも間違いではありません。お客様の要求する部品の仕様を実現することが必要条件だからです。しかし今回は、車の動きに部品がどう寄与するのかを考えながら開発を進めたいと考え、お客様とコミュニケーションをとる中で、ロアアームブッシュの大事さがわかってきました。お客様の中では認識されていたことでしょうが、我々は全く知らない。こちらの勉強不足でした。そこで、ロアアームブッシュも並行して開発を進めることになったんです。

受注・開発の原動力となる、チーム力

一口に部品の開発と言っても、1~2年かかりますし、一人ではできません。設計、営業、品質保証、生産技術、製造部門など、部門をまたがり多くの社員が携わって、機能横断型のチームで対応します。結果的に彼らの力とチームワークがロアアームブッシュ受注の原動力になるんですが、何しろ個性豊かな面々。リーダーとしてまとめるのは本当に大変でした。私はわりと理屈や正論に走りがちなので、みんなの個性や熱さに助けられました。

形状提案や自主試作がお客様からの信用に結びつく

足回り部品の開発は最初は順調でした。お客様の要求仕様に対して、こちらから形状を提案して仕様を満足するのは当然のこととして、ほかにも形状違いのものを自主試作したりしました。お客様の方で評価していただくと、これがすごくいいと。車につけると走りが変わると。

最終的にこれでOKという判断をされるのがA氏なのですが、A氏から「自分が目指していたものに近づいた」と言っていただき、「モルテンは面白いな。是非車に一緒に乗って体感してみてよ」というお誘いまでいただきました。実際にA氏が助手席に乗って、我々が運転して、「ほら、走行安定性もいいし乗り心地もいいでしょ」とか「こんな違いがあるでしょ」といった感性に関わる部分も含めて、色々教えていただきました。我々にとっては学びの宝庫で、部品一つでこうも走りが変わるのかと本当に驚きました。こういう活動も含めて、お客様と信頼関係を築けているという手応えがありました。もちろん、競合メーカーからも価格や部品の特性に関して提案があるので、受注できるかどうかはお客様の比較検討次第。ただ「これは行ける」と我々は考えていました。

エピソード 02

追究し続けた、耐久性と性能のバランス

お客様の理想以上の耐久性を生み出すために

開発を進めていくうちに、耐久性が課題となりました。耐久性の要求仕様にどうやっても入らない。モルテンは性能重視で、それがお客様の高評価につながっていたのですが、耐久性が満足できないのでは使ってもらえません。この両者は二律背反の関係で、性能を重視すると耐久性を犠牲にせざるを得ない所があります。結果、あれだけ一生懸命にやったのに、受注ターゲットにしていた部品の失注が次々に決まりました。ロアアームブッシュだけは死守しようと頑張ったのですが、「他社に発注します」と言われました。もうガックリというか、目の前が真っ暗でした。

「求める走り」をお客様と一緒に追究

ロアアームブッシュの他社への発注の話を耳にしたA氏が「それでは求める走りにならない」と冒頭の話のように海外出張を急遽切り上げて、我が社にかけつけて来られました。ご自分で社内は説得されると言われ、「モルテンさん、何とかできるはずだ。やりましょう」と。ここまで言っていただいたら応えるしかありませんよね。その後の2週間は耐久性を満足させるために機能横断チーム総動員で取り組みました。何しろ時間がない。2週間以内に解析してモノをつくって評価してと、色んなことをやらなければなりません。お客様からは「性能はここまでは譲れるから」といったアドバイスもいただきましたが、社内にもうちのサプライヤーさんにも相当無理を言って、もうとにかく必死でした。頑張りの甲斐もあって、最後は何とか耐久性をスペックにいれることができました。

何とか耐久性をスペックにいれることができましたが、懸念は性能です。耐久性を上げるために犠牲にした性能面がどの程度評価に影響するかがポイントでした。お客様にうちの部品と転注先の部品と両方を評価していただいて、最終的に「モルテンさんにお願いします」と言われた時には、社内は大歓喜ですよ。本当に社内外の関係者の皆さんには感謝の気持ちしかありません。

エピソード 03

「ブッシュはモルテン」と言われる日を目指して

今回の件で、お客様から「今後もモルテンと一緒に仕事がしたい」と言っていただきましたが、そこに満足してはダメなんです。お客様から開発依頼があった時に、「うちの部品だとこういう性能が出るのでぜひ使って下さい」、「他社のモノでは理想的な車の動きは実現できませんよ」という提案をしたいですね。そのためには、車のことをもっと知り尽くして、ブッシュを変えることで車の走りがこう変わるというのを言えるようにならないと。論理的に語れる部分と、走りという極めて感覚的な感性の世界で、お客様にない視点を提案しないといけません。ある意味で、お客様以上に車のことを理解しなくてはなりません。そのため、1年に数回サーキットを貸し切り、様々な車の乗り比べをしたり、ドライバーが感じる走る歓びを自分たちで深究しています。「ボールはモルテン」とよく言われますが、「ブッシュはモルテン」と言われる日を目指して邁進していきます。

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