エピソード 01
「やるしかない」リミットは2週間
まさに大逆転。モルテンの自動車部品事業の歴史の中で、ロアアームブッシュほど劇的な受注は初めてではないでしょうか。一旦は他社への発注が決まったものを、お客様のキーパーソンであるA氏の「モルテンの部品でないと狙った性能が出せない。何とかやってくれ」という情熱あふれる言葉がきっかけで一転し、モルテンが受注しました。
それもA氏は海外出張を急遽切り上げて帰国され、その足で高陽工場に寄って下さった。その思いに応えない訳にはいかない。やるしかない。でも残された時間はわずか2週間。自分たちにできるのか、間に合うのか。今だから言いますが、不安だらけ。自信はあまりなかったですね。
盲点だった、車の動きに必要な部品の重要性
お客様の次世代の車の開発に向け、共同開発契約を締結し、いくつかのサスペンション関連の足回り部品の開発を進めていました。その開発過程で、ロアアームブッシュが、我々の想定以上に、車の走る・曲がる・止まるに大きく影響する重要な部品であることがわかりました。我々は性能や仕様を部品単体で考えがちで、それは必ずしも間違いではありません。お客様の要求する部品の仕様を実現することが必要条件だからです。しかし今回は、車の動きに部品がどう寄与するのかを考えながら開発を進めたいと考え、お客様とコミュニケーションをとる中で、ロアアームブッシュの大事さがわかってきました。お客様の中では認識されていたことでしょうが、我々は全く知らない。こちらの勉強不足でした。そこで、ロアアームブッシュも並行して開発を進めることになったんです。
受注・開発の原動力となる、チーム力
一口に部品の開発と言っても、1~2年かかりますし、一人ではできません。設計、営業、品質保証、生産技術、製造部門など、部門をまたがり多くの社員が携わって、機能横断型のチームで対応します。結果的に彼らの力とチームワークがロアアームブッシュ受注の原動力になるんですが、何しろ個性豊かな面々。リーダーとしてまとめるのは本当に大変でした。私はわりと理屈や正論に走りがちなので、みんなの個性や熱さに助けられました。
形状提案や自主試作がお客様からの信用に結びつく
足回り部品の開発は最初は順調でした。お客様の要求仕様に対して、こちらから形状を提案して仕様を満足するのは当然のこととして、ほかにも形状違いのものを自主試作したりしました。お客様の方で評価していただくと、これがすごくいいと。車につけると走りが変わると。
最終的にこれでOKという判断をされるのがA氏なのですが、A氏から「自分が目指していたものに近づいた」と言っていただき、「モルテンは面白いな。是非車に一緒に乗って体感してみてよ」というお誘いまでいただきました。実際にA氏が助手席に乗って、我々が運転して、「ほら、走行安定性もいいし乗り心地もいいでしょ」とか「こんな違いがあるでしょ」といった感性に関わる部分も含めて、色々教えていただきました。我々にとっては学びの宝庫で、部品一つでこうも走りが変わるのかと本当に驚きました。こういう活動も含めて、お客様と信頼関係を築けているという手応えがありました。もちろん、競合メーカーからも価格や部品の特性に関して提案があるので、受注できるかどうかはお客様の比較検討次第。ただ「これは行ける」と我々は考えていました。